「英会話の9割はたった721語で成り立っている」という話を聞いたことはありませんか?もしそれが本当なら、膨大な単語帳を覚える苦労から解放されそうです。
結論から言うと、この数字は「半分は本当ですが、半分は大きな誤解」を含んでいます。721語という数字の正体を知らずに学習を進めると、「覚えたのに全然話せない」という落とし穴にハマりかねません。
この記事では、721語の根拠となるデータ(NGSL-S)を紐解きながら、最短で英会話力を伸ばすための正しい活用法を解説します。
結論|「721語で9割」は“半分本当で半分誤解”
まず、この魅力的な数字の正体についてお話しします。これは「話し言葉コーパス(実際に話された膨大な英語データ)」を分析した際、出現頻度が高い順に721語を集めると、全体の約90%を占めるという統計データに基づいています。
「じゃあ、この721語さえ覚えれば英語はペラペラだ!」と考えるのは早計です。なぜなら、この90%には「I, you, the, is, get」のような機能語(文法的なつなぎ言葉)が大量に含まれているからです。
以下の表で、よくある誤解と正確な事実を整理しました。
| よくある言い方 | 正確な意味(何の指標か) | ありがちな誤解 | 学習への落とし込み |
|---|---|---|---|
| 英会話の9割は721語でできる | 話し言葉のデータ内で、出現回数ベースで最大90%をカバーする頻出語リストがある(NGSL-S) | 721語の意味さえ知っていれば、会話の内容が9割理解できる | 最重要の基礎体力として、この721語を「無意識に使える」レベルまで高める |
| 721語覚えれば英語は話せる | 頻出語彙を知っていることは、スピーキングの土台になる | 単語帳で意味を覚えれば、口からスラスラ英語が出てくる | 知識(理解)と技能(会話)は別。文法・発音・瞬発力のトレーニングが別途必要 |
| 90%カバー=ほぼ理解できる | 10語に1語しか知らない単語が出てこない状態 | 残りの10%は重要ではない単語だ(実はここが話題の核) | 90%では推測が必要。95%〜98%を目指すことで快適な理解に繋がる |
| 単語数は少ないほど正義 | 効率よく頻出語から学ぶ順序の最適化 | これ以上、単語を増やす必要はない | 721語はあくまでスタート地点。ここから自分の目的に合わせた語彙追加が必要 |
「90%カバー」の意味|なぜ“会話が9割できる”と勘違いされる?
「90%もカバーしているなら、ほとんど理解できるはず」と思いますよね。しかし、言語学的なカバー率の90%は、体感としては「まだかなり苦しい」状態です。
重要な単語ほど「残りの10%」に含まれる
日常会話において、文の構造を作る「機能語(have, do, itなど)」は頻繁に登場し、これらが90%の大半を占めます。一方で、会話の核心となる「内容語(具体的な名詞や動詞)」は、残りの10%に含まれることが多いのです。
例えば、「私は昨日、渋谷で新しいパソコンを買った」という会話があったとします。太字の部分が分からなければ、いくら「私は〜で〜を〜した」という骨組み(頻出語)が聞き取れても、相手が何を言いたいのかは理解できません。
721語の出典は?|NGSL-Sと話し言葉コーパス
この「721語」という具体的な数字は、英語教育学の権威であるチャールズ・ブラウン博士らが開発した「NGSL-S(New General Service List – Spoken)」というリストに由来します。
- NGSL(New General Service List):一般的な英文の約92%をカバーする基本約2,809語のリスト
- NGSL-S(Spoken):実際の「話し言葉」データを分析し、会話で特に頻出する語を抽出したもの
ブラウン博士らの研究によれば、台本のない自然な英会話(Unscripted Spoken English)においては、わずか721語の見出し語で全体の最大90%をカバーできるとされています。
※補足:単語の数え方(Word Family)について
ここで言う「721語」や「2,809語」は、「Word Family(語族)」という単位で数えられています。これは、「run」という1つの単語に、派生形である「runs, running, ran」なども含めて1語とカウントする方法です。
つまり、実際に覚えるべき単語の変化形を含めると、数はもう少し多くなる点に注意が必要です。
つまり、この数字自体はデマではなく、信頼できる学術データに基づいたものです。重要なのは、この数字をどう解釈し、学習に活かすかです。
参考:New General Service List Project
90%・95%・98%の違い|理解の快適さはどこで変わる?
では、カバー率が何%になれば、私たちは「英語ができる」と実感できるのでしょうか。言語習得の研究では、カバー率と理解度の関係について以下のような目安が語られることがあります。
721語(90%カバー)は、あくまで「最低限のスタートライン」と捉えるのが現実的です。
| カバー率(目安) | 未知語の頻度(ざっくり) | 体感(起きやすいこと) | 学習の方針(次にやること) |
|---|---|---|---|
| 90% (約720語〜) | 約10語に1語 | 推測頼みになりやすく、話題が変わるとついていけない。重要なキーワードを聞き逃すストレスがある。 | 頻出語と基本フレーズの完全定着。 「知っている」を「使える」に変える時期。 |
| 95% (約3,000語〜) | 約20語に1語 | 辞書なしでも大意がつかめるライン。分からない単語があっても文脈から推測が可能になる。 | 目的別語彙とコロケーション(語の繋がり)の強化。 自分の専門分野や興味のある単語を増やす。 |
| 98% (約6,000語〜) | 約50語に1語 | かなり快適。ネイティブ向けの映画やドラマも楽しみながら視聴できるレベル。 | 多聴・多読で英語の量に触れ、語彙のニュアンスを深める。 文化的な背景知識を学ぶ。 |
多くの英語学習者が目指すべき最初のマイルストーンは、721語を完璧にした上で、さらに語彙を積み上げて95%の壁を超えることだと言えます。
学習法|721語を「知ってる」から「使える」にするコツ
「じゃあ、やっぱり数千語覚えないとダメなのか」と落ち込む必要はありません。初心者がまずやるべきことは、この721語の「質」を高めることです。
「見てわかる」から「聞いてわかる・言える」へ
721語のリストを見ると、「go」「take」「get」など、中学1年生で習う単語ばかりです。「こんなの知ってるよ」と思うでしょう。しかし、英会話で詰まってしまうのは、これらの単語を0.1秒で引き出す回路ができていないからです。
「知っている(Receptive knowledge)」と「使える(Productive knowledge)」の間には大きな壁があります。721語に関しては、意味が言えるだけでなく、無意識に口から出るレベルまで徹底的に反復練習する必要があります。
単語単体ではなく「チャンク」で覚える
721語のパワーを最大化するには、単語を単体で覚えるのではなく、よく使われる組み合わせ(チャンク)で覚えるのが効果的です。
- have → “have a good time”, “have to”
- get → “get up”, “get ready”, “get used to”
このように、721語を核とした「定型表現」をストックすることで、語彙数が少なくても表現の幅が一気に広がります。
よくある質問(FAQ)
- その721語のリストはどこで手に入りますか?
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NGSLプロジェクトの公式サイトで「NGSL-S (Spoken)」として無料で公開されています。ExcelやPDF形式でダウンロード可能です。
- 721語だけ勉強すれば、他の単語は覚えなくていいですか?
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いいえ、721語はあくまで「土台」です。日常会話の9割を構成するとはいえ、残りの1割に「具体的なトピック(仕事、趣味、ニュースなど)」が含まれます。まずは721語を固め、その後に自分の興味や目的に合わせた単語を追加していきましょう。
- 中学英語をやり直せば721語はカバーできますか?
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はい、概ねカバーできます。721語の多くは中学英語の範囲内です。ただし、学校の勉強のように「訳読」するのではなく、「音読」や「瞬間英作文」を通じて、会話で使える形にしていくことが重要です。
まとめ
「英会話の9割は721語でOK」という説は、「頻出語を極めることが英会話の最短ルートである」という点においては真実です。しかし、「それだけで会話がペラペラになる」というのは誤解です。
大切なのは、まずこの721語(NGSL-S)を「見てわかる」状態から「瞬時に使える」状態に引き上げること。そして、そこを土台にして、自分に必要な語彙を少しずつ足していくことです。
魔法のような近道はありませんが、「優先順位の王道」は確実に存在します。まずは焦らず、基本の721語を会話の武器にすることから始めてみませんか?








