仕事に真面目に取り組み、結果を出している人ほど「なぜあの人は守られているのだろう」「どうして頑張っている自分が報われないのだろう」と不公平感を感じる瞬間があるものです。
あなたの職場の「仕事ができない人」が守られているのは、その人が優秀だからではありません。結論から言うと、個人の能力ではなく、上司の心理、組織のコンプライアンス、そして「現状維持」を求める組織の論理が深く関わっているからです。
これは、あなたが抱えるストレスや不満は、個人的な感情論ではなく、組織の仕組みが生み出している課題だという証拠でもあります。
本記事では、職場で「仕事ができない人」が守られてしまう裏側の構造を解き明かし、あなたがそのフォローで疲弊しないための具体的な対処法を解説します。不満やストレスを解消し、自分の業務に集中できる環境を整えるヒントを掴んでください。
仕事ができない人が「守られてしまう」3つの理由
仕事のパフォーマンスが低い人がなぜか上層部や周囲から擁護され、結果的に長く会社に残ってしまう背景には、組織全体が抱える構造的な要因と、上司個人の心理が複雑に絡み合っています。
上司の「自己保身」と「責任感」が保護の根源となる
仕事ができない部下を守る上司の行動には、一見すると親切に見えるものの、裏側に「自己保身」という冷徹な論理が隠されているケースが多々あります。
上司の評価は、部下の育成能力やマネジメント能力に直結します。部下が重大なミスを犯せば、「指導が不十分だったのではないか」と上司自身の評価が下がる可能性があるのです。そのため、部下の失敗を内部で静かに処理し、大ごとになる前に手厚くフォローすることで、自分の管理能力の低さを隠そうとする心理が働きます。
また、上司として「部下を見捨てたくない」「育てきれなかったら自分の責任だ」という、ある種の責任感が働くのも事実です。これは一見、人情味あふれる行動ですが、適切な時期に厳しい指導を避けることで、結果的に部下の成長の機会を奪い、組織全体への負担を増やすことにつながってしまいます。特に、能力は低くとも上司に忠実で従順な部下である場合、その「庇護欲」はさらに強くなる傾向にあると言えます。
※庇護欲(ひごよく):自分より弱い立場の人や、か弱い存在を守りたい、助けたいという心理的な欲求のこと。
現代のコンプライアンスと「解雇の難しさ」
現代の日本企業において、能力が低いことを理由に社員を解雇するのは極めて困難なのが現状です。これは、労働契約法などの法律によって、労働者の地位が強く守られているためです。
会社が「仕事ができない」として社員を解雇するためには、「能力不足が客観的に証明されているか」「会社として改善のための教育や指導を十分に行ったか」「配置転換など他の手段を尽くしたか」といった、非常に厳しい条件をクリアしなくてはなりません。
つまり、能力不足の社員を排除しようとすると、上司や人事は膨大な労力と時間を使って指導記録を作成し、改善の機会を与え続ける義務が発生します。その指導の過程で、相手から「パワハラだ」と訴えられてしまうリスクもゼロではありません。このような労力やリスクを考慮すると、「指導や解雇を試みるより、現状のまま最低限の業務だけさせておいた方が、組織としては面倒が少ない」と判断されてしまうのです。
結果として、コストやリスクを避けたいという組織の論理が働き、パフォーマンスが低い人であっても、大きな問題を起こさない限りは安易に「守られてしまう」構造が生まれます。
職場における「人間関係の円滑さ」という見えない価値
仕事の能力と、職場で守られるかどうかは、必ずしもイコールではありません。むしろ、仕事はイマイチでも人間関係のスキルが高い人は、驚くほど周囲に擁護されやすいものです。
これは、職場には数値化できる成果だけでなく、「円滑なコミュニケーション」「職場のムード」「人間的な繋がり」といった、目に見えない価値が存在するためです。たとえば、愛嬌があっていつも笑顔の人、文句を言わず雑務を率先してこなす人、上司のプライベートな相談相手になれる人などは、「仕事はできないが、いると助かる」という評価を得やすいのです。
周囲は、仕事のミスがあっても「まぁ、あの人だから仕方ない」「機嫌よくいてくれる方が場の空気も良い」と許容しやすくなります。一方で、仕事はできるけれど、態度が傲慢だったり、周囲との協調性に欠けたりする人は、ミスを犯した際に手厳しく批判され、孤立しやすくなります。つまり、組織にとって「仕事の成果」だけでなく、「人間関係を乱さないためのコスト」が非常に重要視されるため、後者におけるパフォーマンスが高い人が結果的に守られるのです。
「守られる人」と「そうでない人」を分ける行動パターン
職場で守られる人と、そうでない人の間には、単なる業務スキルの差だけではない、心理や行動パターンの明確な違いが存在します。特に、仕事ができない人ほど、なぜか辞めずに長く残ってしまうという現象は、この行動パターンに起因していると言えるでしょう。
比較表:守られる人の「愛嬌」と守られない人の「摩擦」
ここでは、仕事の能力とは別に、周囲から助けを得やすい人とそうでない人を分ける、人間関係における行動パターンを比較します。
| 行動特性 | 守られやすい人(仕事能力が低くても) | 守られにくい人(仕事能力が高くても) |
|---|---|---|
| 報連相 | 内容が薄くても、頻繁に行う。上司の機嫌を損ねないタイミングを計る。 | 完璧主義で、結果が出るまで報告しない。指摘されると感情的になる。 |
| 態度 | 謙虚で、ミスを指摘されても素直に受け止める姿勢を見せる(実行力は別)。 | 自分のミスを環境や他人のせいにして、責任回避の傾向が強い。 |
| 協調性 | 雑務や飲み会の幹事など、仕事以外で協力的。ムードメーカーの役割を担う。 | 業務外の交流を拒否しがち。周囲への気配りが少なく、ギブ&テイクの意識が薄い。 |
| 評価の軸 | 上司や同僚の「個人的な感情」によって、許容範囲が広がる。 | 「仕事の成果」という厳密な軸で判断され、人間的なフォローが入りにくい。 |
重要なのは、「守られる人」は、意識的か無意識的かにかかわらず、「この人を助けても、自分の精神的な負担は増えない」と周囲に感じさせている点です。愛嬌や素直さ、謙虚さといった特性が、職場における一種の「保険」として機能していると言えるでしょう。
仕事ができない人が「辞めない」背景にある心理構造
職場に不満を抱えているにもかかわらず、「仕事ができる人ほど転職し、できない人ほど残る」という現象は、多くの企業で見られます。これは、仕事ができない人の根深い心理構造が影響しています。
まず、「現状維持バイアス」が強力に働きます。転職という新しい環境への適応には、大きな労力と精神的なエネルギーが必要です。仕事で成果を出せていない人にとって、転職活動は自信をさらに打ち砕くリスクを伴います。そのため、「転職して今より状況が悪くなるくらいなら、今の慣れた環境に留まろう」という心理が働き、居心地の悪さよりも「安定」を優先しがちです。
次に、「自己評価の極端さ」も関係しています。仕事ができない人の中には、自分の能力を過大評価するタイプ(ダニング=クルーガー効果)と、逆に極端に過小評価するタイプがいます。過大評価型は「自分は悪くない、会社の仕組みが悪い」と考えるため、辞める理由がありません。過小評価型は「どうせ自分には無理だ」と諦めがちなため、転職市場での競争力がないことを察知し、今の会社にしがみつこうとするのです。
結果として、彼らは自分の居場所を守ることに全力を注ぎ、職場への依存度が高くなります。あなたのように真面目で能力の高い人ほど、自分の市場価値を理解しているため、より良い環境を求めて行動に移すという違いが生まれます。
仕事のフォローで疲弊しないための建設的な対処法
仕事ができない人のフォローを続けることは、精神的にも肉体的にも大きな負担となり、「もう優しく接することができない」と限界を感じる人もいるでしょう。あなたのストレスを放置せず、自分の心身を守るための、建設的な対処法を3ステップで解説します。
自分の心のバケツが溢れないように負担を「見える化」する
フォローに疲弊している状態は、あなたの「心のバケツ」に水が溢れかけている状態です。まず、その負担を客観的なデータとして「見える化」することが、最初の一歩となります。
感情論で上司に訴えても理解されにくいですが、数値データは強力な証拠になります。例えば、一週間のうち、あなたが「仕事ができない人のフォローやミスの修正に費やした時間」を記録してみてください。
記録すべき項目例:
- ○○さんのミスによる修正作業時間(例:3時間)
- ○○さんからの質問対応時間(例:1日合計1時間)
- ○○さんの業務遅延による自分の残業時間(例:2時間)
- ストレスによる自分の業務効率低下(体感)
このデータを集めた上で、「このままでは私の担当業務の品質が維持できません」と、冷静に上司に相談しましょう。目的は、相手を非難することではなく、業務のボトルネックを解消し、自分の業務を保護することです。客観的なデータがあれば、上司も業務の再配分や指導の必要性を認識せざるを得ません。
業務改善ではなく「人間関係の再構築」に焦点を当てる
最もストレスが溜まる原因は、「相手を成長させよう」「相手のミスを無くそう」と期待してしまうことです。しかし、仕事ができない人を変えるのは、あなたが負うべき責任ではありません。
ここでは、相手の業務改善ではなく、あなた自身の「人間関係の再構築」に焦点を当てることを提案します。
- 期待値の調整(割り切り): 「この人はここまでしかできない」と割り切り、それ以上の成果を期待しないようにしましょう。これは諦めではなく、自分の精神的な健康を守るための防衛策です。重要な業務は振らない、最終チェックは必ず入れるなど、相手の能力を前提とした仕事のフローを確立します。
- 物理的・心理的な距離: 業務に関係のない雑談や過度な親切を減らし、業務上必要な最低限のコミュニケーションに留めます。席を離したり、違うフロアで作業するなど、物理的な距離を取れるなら、それも有効です。
- 上司への役割委譲: フォローの依頼が来ても、「申し訳ありませんが、私のタスクが溢れており、この件はマネジメントラインである○○さんに相談していただけますか」と、指導や教育の責任を上司へ戻すよう促します。これにより、あなたが一人で抱え込む状況を防ぐことができます。
指摘と指導の線引き:ハラスメントにならない伝え方
仕事ができない人への指導は、伝え方を間違えるとハラスメントだと受け取られるリスクがあります。あなたの指摘がパワハラにならないよう、厚生労働省の定義を踏まえた線引きを意識しましょう。
パワハラは、「①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」の3つの要素をすべて満たした場合に成立します。
あなたが注意すべきは、②業務上必要かつ相当な範囲を超えないことです。
| 指導のNG例(ハラスメントリスクが高い) | 指導のOK例(建設的なフィードバック) |
|---|---|
| 人格を否定する:「何度言ったらわかる?頭が悪いのか」 | 行動に焦点を当てる:「このタスクの進め方について、前回伝えた手順と異なる点があります」 |
| 感情的に怒鳴る:「なぜこんなミスをした!」と大声で威圧する。 | 冷静に論理的に伝える:ミスが組織に与える具体的な影響(納期遅延、コスト増)を淡々と伝える。 |
| 人前で執拗に責める:多くの同僚がいる前で長時間叱責し続ける。 | 個室やオンラインで一対一で話す:指摘は人目につかない場所で短時間に行う。 |
| 改善策を示さない:「ちゃんとやれ」など、曖昧な指示に終始する。 | 具体的な改善策を示す:「次回はチェックリストの3番目を必ず確認してください」と具体的に伝える。 |
大切なのは、指導の目的が「相手を懲らしめること」ではなく、「業務の品質を確保すること」にあると明確に意識することです。常に冷静に、感情ではなく「事実」と「改善策」を伝え続けることで、ハラスメントのリスクを避けながら、あなた自身の正当な職務を全うできるでしょう。
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まとめ
仕事ができない人が職場で守られるという現象は、上司の自己保身や組織のリスク回避、そして現代の解雇の難しさといった、組織側の論理によって生み出されています。
この構造の中であなたが疲弊しないためには、相手を変えようと努力するのをやめ、自分自身の心身と業務を守ることに集中することが最も重要です。
- 自分のフォロー負担を数値で記録し、上司への相談材料とする。
- 「ここまでしか期待しない」と割り切り、相手への期待値を手放す。
- 指導の際は「行動」に焦点を当て、「人格」を否定しない。
これらの対処法を取り入れることで、仕事ができない人へのストレスを減らし、あなた自身がより快適に、本来のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることができます。ぜひ今日から実践してみてください。




