いま注目される「第七次産業」とは?6次産業化を超える新たなビジネスモデル【明確な定義はないが…】
「6次産業化」という言葉は聞いたことがあっても、「第七次産業」となると耳慣れない方が多いかもしれません。実はこの第七次産業、農林漁業をベースにした6次産業の枠組みを超え、ITやAIなどの先端技術を活用して地域や社会の課題解決にまで踏み込むビジネスモデルとして一部で注目されています。ただし、現在のところ公的機関による明確な定義はなく、まだ生まれつつある概念です。本記事では、第七次産業の概要や期待される効果、そして課題について、わかりやすく解説します。
「第六次産業」の基本的な考え方
日本では農林水産省が中心となって、一次産業(農林漁業)×二次産業(製造・加工)×三次産業(流通・販売・サービス)を掛け合わせる「6次産業化(ろくじさんぎょうか)」が推進されてきました。
- 一次産業(1次): 作物の栽培・漁業など「素材をつくる」段階
- 二次産業(2次): 加工・製造など「製品にする」段階
- 三次産業(3次): 流通・販売・観光・サービスなど「届ける・サービスを付加する」段階
これら3つを足し合わせるのではなく、「1×2×3」という掛け算で新たな付加価値を生み出そうというのが「6次産業化」です。たとえば、農家が野菜を作るだけではなく、自ら加工食品を作り、自前で販売や観光体験などまで行うことで、より大きな経済効果や地域活性化を目指す取り組みが各地で行われています。
>第何次産業まである?日本の産業構造を解説【第一次産業~第六次産業】
「第七次産業」とは?
公式な定義は存在しない
「第七次産業」という言葉自体には、現時点で農林水産省や経済産業省などの公的機関が示す正式な定義は見当たりません。6次産業化のように明確な政策スローガンや補助制度が整っているわけではなく、ビジネス・学術・行政の各分野で統一的に扱われている概念でもありません。
一部で使われる例示的な捉え方
ただし、一部の事業者や研究者が「第七次産業」という言葉を使う場合、以下のようなアイデアを指しているケースがあります。
- 6次産業のさらなる高度化・拡張
- 第一次産業から三次産業までを掛け算で融合する6次産業の枠組みに、IT・DX(デジタル・トランスフォーメーション)やAI、バイオテクノロジーなどの先端技術を取り込み、ビジネスモデルを大きく進化させる。
- データ解析やIoTを活用して、生産計画・加工・物流・販売・マーケティングなどを一気通貫で最適化することで新たな価値を創出する。
- 地域社会や環境への包括的な貢献モデル
- 6次産業化では経済面の付加価値創出が中心だったのに対し、地域コミュニティの再生、エコツーリズムや教育事業、環境保護・再生エネルギーなど、さらに広い領域と連携し、地域全体の持続可能性を高めるモデルを指す。
- 「一次産業の担い手確保」「地域資源の保全」「循環型社会の構築」など、社会課題の解決にまで踏み込む。
- サービス産業を超えた新しい産業領域
- 一次~三次までの従来の区分でとらえきれない、新たなサービスや体験を設計し、観光×教育×ヘルスケア×食文化など多産業連携を強化した総合ビジネスを展開する。
- 従来の“6”にさらに何かしらの新要素(たとえば「学習」「健康」「福祉」など)を掛け合わせることで「7」という呼称を用いているケース。
「第七次産業」への期待と課題
期待される効果
- ビジネスの高付加価値化: デジタルや先端技術を活用することで、生産効率や品質向上だけでなく、データ活用による新たなサービス創出が期待できる。
- 地域活性化・人口定着: 地方における雇用創出やコミュニティ再生につながり、若い世代にとって魅力的な仕事の場になる可能性がある。
- 社会課題解決につながる複合事業: SDGsの観点から、環境・教育・観光・医療・福祉など多様な要素を取り入れ、地域や社会の課題解決につなげる。
実現に向けた課題
- 概念の曖昧さ: 「第七次産業」という言葉に公式な定義がないため、当事者間で共通の目標設定や指標づくりが難しい。
- 資金・人材の確保: 先端技術の導入や地域連携には、相応の投資やデジタル人材など専門人材が必要になる。
- 収益モデルの確立: 6次産業化においても、加工や販売に手を広げたものの収益が思うように拡大せず、苦戦する事例もある。新たな要素を追加するほどリスク管理やビジネスモデル設計の難度が増す。
- 地域・事業間の連携: さまざまな分野が協力するには、利害関係を調整しながらまとめる役割が重要。地域内外のコーディネーターや自治体の後押しが欠かせない。
まとめ
「第七次産業」という言葉は、まだ一般的・公的に確立された概念ではありません。現状では、
- 6次産業化をベースにITやAIなど先端技術を取り込み、ビジネスを高度化する
- 農林漁業や観光、医療、教育、環境保全など多岐にわたる分野が一体となり、新たな産業モデルを築く
といった文脈で、一部の関係者が“次なるステージ”を示すキーワードとして使っているケースが散見される段階です。実際にこうした動きが定着し、社会的に広く浸透していけば、新しいビジネス領域や地域活性のモデルとして「第七次産業」という言葉が普及する可能性はあります。しかしながら、現時点では“生まれつつあるアイデア・潮流”の域を出ておらず、明確なビジネススキームや制度設計が整っているわけではありません。
もし「第七次産業」について詳しく知りたい場合は、6次産業化や地域活性化の先進事例を調べ、さらにデジタル技術や多産業連携の取り組み事例に着目すると、どのような進化の方向性が考えられているか見えてくるでしょう。いずれにせよ、まだ定義が固まっていない概念であることを念頭に置き、個別の事業者や研究者の発言・文献を確認しながら情報を集めることをおすすめします。