クラウドの進化は止まりません。クリック操作で環境を構築する便利さの裏側で「あとで同じ構成を再現できるのか」という課題はむしろ大きくなっています。
Infrastructure as Code(IaC)はこの問題をコードで解決するアプローチで、Terraform、Pulumi、AWS CDK は2025年時点で代表的な三大ツールです。
この記事では2025年7月時点の公式情報を確認しながら、各ツールの強みと注意点を比較します。
IaC ツール比較が重要な理由
IaC は単なる設定ファイルではなく、GitOps、テスト自動化、クラウド・セキュリティ・ポスチャ管理(CSPM)などと密接に連携します。
ところがツールごとに言語体系やステート管理の思想が大きく異なるため、導入後に「想像以上に運用が大変」と感じることも珍しくありません。
ここでは、①記述言語、②クラウド対応、③ステート管理、④コミュニティ・サポートという比較軸を押さえた上で、各ツールの最新動向をチェックします。
Terraform:圧倒的エコシステムでマルチクラウドを制覇
Terraform は HashiCorp 製の宣言的 IaC ツールです。2024 年に GA となった v1.9 以降、入力変数バリデーション強化や templatestring
関数追加など改善が続き、2025-07 現在の安定版は v1.12.x です(※正確なバージョンは公式リリースページ参照)。
公式ブログによればプロバイダー総数は 3,000 を超え、主要クラウドから SaaS まで幅広いリソースを一元管理できます。宣言的 DSL「HCL」でプランと適用を分離できるため、コードレビュー文化との親和性も高いです。
メリット
- マルチクラウド対応が圧倒的。AWS と Azure を単一リポジトリで制御可能。
- S3 + DynamoDB ロックを用いたステート管理ベストプラクティスが確立。
- 国内外のコミュニティが成熟し、日本語情報も豊富。
デメリット・注意点
- 独自 DSL の学習が必要で、アプリ開発者主体のチームには負担になることがある。
- DSL で条件分岐やループを書くと可読性が低下しやすい。
- 商用版(Terraform Cloud/Enterprise)と OSS 版の機能差が拡大傾向。
Pulumi:好きな言語で IaC、開発者体験を最優先
Pulumi は TypeScript、Python、Go、C# など一般言語でインフラを記述できるツールです。現行安定版は v3.181.x(2025-06-27 時点。詳細は公式リリースページ参照)。Terraform プロバイダーを再利用する pulumi-terraform-bridge も提供され、マルチクラウド環境でもスムーズに移行できます。
Pulumi AI(プレビュー)は自然言語からコードスニペットを生成しオンボーディングを加速しますが、現在はプレビュー版かつ一部機能のみ提供です。今後の正式版リリースや仕様変更の可能性もあるため、実運用導入時は安定性や公式アナウンスを必ず確認しましょう。
メリット
- 既存言語でテストフレームワークや Linter をそのまま適用できる。
- クラス・関数で高度に抽象化し、DRY 原則を保ちやすい。
- Pulumi Cloud を使えばマネージドのステート管理と CI/CD 連携が容易。
デメリット・注意点
- 自由度が高いぶん「アプリとインフラの境界」が曖昧になりがち。
- エンタープライズ向け RBAC や SAML 連携は有料プランが基本。
- AI 機能はプレビューである点を周知し、誤生成リスクを管理する必要。
AWS CDK:AWS ネイティブ開発を高速化する公式フレームワーク
AWS CDK は CloudFormation を抽象化した公式 IaC フレームワークです。2025 年 2 月以降、AWS は CLI と Construct Library を別リリースサイクルに分離しました。
そのため最新安定版は Construct Library が v2.1020.x、CLI は独自のバージョン体系を取ります(※詳細は公式リリースページ参照)。
HotSwap デプロイや cdk watch
によりフィードバックループを短縮でき、Construct Hub で高品質なライブラリを再利用できます。
メリット
- AWS の新サービスが GA と同時にライブラリへ反映されるスピード感。
- CloudFormation 互換でガバナンス要件と衝突しにくい。
- 公式サポートプランを通じたエンタープライズ向けサポート。
デメリット・注意点
- AWS 専用ツールであり、マルチクラウドには非対応。
- CloudFormation のリソース数上限やタイムアウト制限を継承。
- リリースサイクルが 2025 年に変わったため、バージョン番号の読み替えが必要。
主要機能・バージョン比較表(2025-07 時点)
項目 | Terraform | Pulumi | AWS CDK |
---|---|---|---|
最新安定版 | v1.12.x ※公式リリースページ参照 | v3.181.x ※同上 | v2.1020.x ※Construct Library |
記述言語 | HCL(宣言的) | TypeScript / Python / Go / C# など | TypeScript / Python / Java / .NET など |
クラウド対応 | マルチクラウド・SaaS 多数 | マルチクラウド(Terraform プロバイダー経由) | AWS 専用 |
ステート管理 | ローカル / S3 + DynamoDB / Terraform Cloud | ローカル / Pulumi Cloud / 他ストレージ | CloudFormation(マネージド) |
拡張性 | Provider・Module 開発が容易 | 言語機能で自由に抽象化 | Construct Hub で共有 |
商用サポート | Terraform Cloud & Enterprise | Pulumi Cloud Enterprise | AWS 公式サポート |
学習コスト | 中(DSL 習得) | 低〜中(既存言語) | 中(AWS 前提知識) |
ユースケース別の選択ガイド
- マルチクラウド戦略+大規模運用:Terraform が堅実。豊富な Provider とコミュニティが武器。
- アプリ開発者主導+言語統一:Pulumi が最適。テスト自動化とモノレポ運用がスムーズ。
- AWS 専用+新サービスを即活用:AWS CDK が最短ルート。Construct Hub でベストプラクティスを再利用。
FAQ:よくある疑問をまとめて解決
- Terraform から Pulumi に段階的移行する方法は?
-
pulumi convert
または pulumi-terraform-bridge(プレビュー)を利用し、まず共有モジュールを移行すると安全です。 - Pulumi AI を本番運用に使える?
-
現状プレビュー段階で一部機能のみ正式サポートです。本番運用ではコードレビューとテストを必須にし、誤生成リスクを管理しましょう。
- AWS CDK のバージョン番号が見慣れないのはなぜ?
-
2025年2月に CLI と Construct Library が分離し、ライブラリは1000番台のバージョン体系になりました。CLI は別バージョンでリリースされます。
まとめ:最終判断フレームワーク
IaC ツール選定は「クラウド戦略」「チームスキル」「ガバナンス要件」の三軸で整理すると迷いません。Terraform はマルチクラウドと巨大コミュニティ、Pulumi は開発者体験とコーディング自由度、AWS CDK は公式サポートと最新サービス追随性が武器です。誰がどのクラウドでどれだけ頻繁に変更するかを具体的に想像し、最も運用しやすい組み合わせを選びましょう。